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特許戦略としての分割出願とその留意点
特許戦略の中にはいろいろな手法があり、自己の発明を他人に容易に模倣させないための戦略の一つとして「出願の分割作戦」があります。
斬新な技術を開発した場合、初めから、広い範囲で発明を権利化することは大事ですが、限られた期間に考えられる範囲の態様のすべてについてしっかりした明細書と請求の範囲を記載して出願することは容易ではありません。また、後発の開発者は、先願の発明を回避するように開発するのが常ですから、完全に網羅したつもりの明細書、請求の範囲であっても、どこかに網羅しきれなかった部分が残ることは避けられません。
このような場合、分割用の特許出願として、形式的には完全でなくてもよいので、考えられることのすべてを広範に記載した明細書と図面を準備し特許出願しておきます。このような特許出願を分割可能な状態で長期にわたって特許庁に係属させておき、他社開発者が既出願発明の回避技術を開発してきたときには、分割用の出願からその回避技術を含むような形の内容を抽出して請求の範囲と明細書を作成し分割出願します。回避技術の内容が分かってから請求の範囲を作成しますので、回避技術の実施抑制効果は大きいものとなります。
分割出願を利用した特許戦略の例として、東京地裁平成24年(ワ)14652事件と、大阪地裁平成25年(ワ)3480事件があります。前者の事件は、原出願(平成11年3月31日出願)の玄孫(五代目)分割出願(平成23年7月15日出願)で争い、後者の事件は、原出願(平成10年4月14日出願)の曾孫(四代目)分割出願(平成24年6月8日出願)で争っています。
分割の要件として、分割出願にかかる発明は、その親出願の分割直前の明細書、請求の範囲又は図面に記載されていることが必要ですので、分割出願で特許戦略を企てるときはこの点に留意しなければなりません。すなわち、実務上分割出願を行う場合、分割出願にかかる発明が、親出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている発明かどうか微妙な場合もあり、分割出願が何回も行われると、審査においても要件を見落としてしまい何代目かの分割出願において、原出願に記載されていない発明について権利化されてしまうことがあります。
したがって、分割出願に基づく特許によって訴訟提起する際は、分割出願に基づく特許発明が、原出願に記載されていた発明であるかどうか確認する必要があります。
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